ほむらの家族 8話 『うな重』


わたしは夜食を食べに行こうと提案した。
ほむらちゃんはほとんど夕飯をとっていなかったし、わたしも途中で席を立ってしまったから。
下の階におばさんたちの姿はなかった。
二人とも部屋に戻っちゃったのかな……?

『冷蔵庫にご飯が入ってるから、温めて食べてって』

おばさんがそう言っていたのでほむらちゃんにそう伝えた。

「先に居間で座ってて。温めて持っていくから」

頷くと、居間でほむらちゃんを待った。




広間は、一人でいるには広すぎた。
テレビのリモコンがテーブルの上に置かれている。
どうも無音の空間が怖かったので、遠慮しながらも電源をいれた。
チャンネルを回してみたが、番組数があちらに比べて圧倒的に少なく、面白そうな番組はやっていなかった。
適当にニュースでもかけておけばよいだろうか。

先ほどははぐらかされてしまったが、ほむらちゃんは一体何を隠しているのだろう。
わたしのことと関係があるみたい……。
優しいほむらちゃんのことだから、きっとわたしを傷つけないようにしてくれているんだと思う。

家族に関係することだと思うけど……。
わたしが寝てる間に、おばさんと何かあったのかも……。
あの人は本当にわからない。
ほむらちゃんに酷いことしてなければいいんだけど……。

いくらなんでもそれはないかな。

それにしても、わたしほむらちゃんに避けられてないかな?
ほむらちゃんの様子がおかしかったのはいつからだっけ。
そういえば、雪の山に登った時に足を滑らせて落ちてたなぁ。
普段のほむらちゃんなら、あんなことないのに。
ただの偶然か……そんなことないよね。
多分あれはわたしのせいだ……なんとなく、そんな気がする。

距離を置かれるようなことをした覚えは……。
何か原因があるとしたら……。
もしかして、おばさんに何か変なこといわれたんじゃ!?
一番怪しいのはあの人だ。

ありもしないことをほむらちゃんに言ったりしたんじゃないのかな?
って、いくらなんでも失礼かな。
う~ん……。

でもやっぱりおばさんが関係してる気がする。
さっきもほむらちゃんはおばさんを引き合いに出していた。
確か抱きしめられたときの感想を聞かれたっけ。

『その……抱きしめられたときにどう感じた?』

もしかしてあの時のことをずっと気にしてたんじゃ。
わたしに関係があることと言えば、あの再会の時におばさんに抱きしめられたことがまず挙げられる。
あれは正直わたしもびっくりしたけど、ほむらちゃんにとってどんな気分だったんだろう?

punya1wa
    ぷにゃーさん作


……2年ぶりなのに。
そっか……そうだよね。

もしわたしがほむらちゃんの立場なら多分嫉妬すると思う。
だとしたら話してくれない理由もわかる。
プライドの高そうなほむらちゃんが、そんな子供っぽいこと言えるはずがない。

だから、わたしほむらちゃんに距離を置かれて……。
そうだったんだ。

――あのほむらちゃんが。
なんて意地らしいんだろう。
申し訳ない気もするけど、そんなほむらちゃんが可愛いと思えた。
二人の仲を取り持ってあげなくちゃ。

「待たせたわね」と重箱を二つ抱えたほむらちゃんがやってきた。
机の上にそれを広げて、二人で手を合わせる。

「いただきます」

「ふふ、これじゃいつもと変わらないわね」

たしかに。
ほむらちゃんの実家に帰ってきているというのに、結局二人きりでご飯を食べている。
自分だけがほむらちゃんを独占してしまっていいのかな。

「そんな顔しないの。私はまどかといる時が一番安心できるんだから」

「そうなの? えへへ。嬉しいな」

ほむらちゃんがそう言ってくれたおかげで少し救われる気がした。
明日からはもっと家族と過ごせるように、時間を作ってあげよう。
それが今ほむらちゃんのためにしてあげられることだから。

重箱のふたを開けると、中から白い熱気と、甘いタレの匂い、こんがりと焼けた茶色い鰻の切り身が顔を出した。
昼間の寿司といい、さすがお金持ちの食事は違うなぁと思った。
ほむらちゃんもこの家にいたころはずっとこんな食事をしていたのかな。

「おいしいね。ほむらちゃん」

「ええ。まどかと一緒なら何を食べてもおいしくいただけるわ」

「ふふふ、せっかくのごちそうにその感想はどうかなぁ」

「だって、店屋物だもの……おいしいに決まってるわ」

ほむらは、重箱に視線を落とす。
そういえば昼間は出前寿司で夕食は鰻丼。
どちらも家庭料理ではなかった。

――そっか、ほむらちゃんはお母さんの手料理が食べたかったんだ。

「ほむらちゃんのお母さんてもしかして、お料理が苦手なのかな」

「さあ、どうだったかしら……少しぐらい不味くても……」

やっぱり……。

「まあ、お客さんに下手なものを出せないわね」

「じゃあ、ほむらちゃんがお料理作ってあげればいいんじゃない?」

私が? と面を食らったような顔をするほむらちゃん。

「そうね。せっかくだから作ってあげようかしら。帰ってきて何もしないのも悪いし」

やっぱりおばさんたちとの溝を埋めたいんだなと、わたしは思った。

「うぇひひ、私も何か手伝うよ」

「そう。ありがとう」

ほむらちゃんのの目を見ると、何かをやり遂げようという意志が宿っているようで嬉しくなった。

「何かいいことでもあったの?」

「ううん、別になんでもないよ」

わたしは悪戯っぽく微笑んだ。
何も教えてくれないほむらちゃんのことが理解できた気がして嬉しくなっていた。
少しずつ、ほむらちゃんと仲良くなれている……そう思っていた。



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